企業のためのメタバースビジネスインサイト:法の観点から見るメタバース 著作権編Vol.2

2022-06-08

近年、高い注目を集めるメタバース。ビジネスに利活用する企業の数も飛躍的に増加しています。いざメタバース空間を使ってビジネスを始める場合、企業がやるべきことは空間設計だけではありません。利用規約の整備、決済システムの確立、ユーザーのプライバシー保護など、快適な空間を提供するための下準備が必要です。本連載では、メタバースビジネスを行う企業が留意・遵守すべきルール、すなわち法務関連のトピックを取り上げます。企業から実際に寄せられる質問を基に、私たちがビジネスを進めていく上でとるべきアクションを、共に考えていきましょう。前回に引き続き、「メタバースと著作権」を取り上げます。

法の観点から見るメタバース 著作権編Vol.1 はこちら

Q1. メタバース空間内で、ユーザーによる音楽利用(ユーザー自身が創作し、メタバース上で公開・販売するコンテンツにおいて他人の楽曲を利用する場合)が想定されます。権利処理はどのようにすればよいでしょうか?

Q2. メタバース空間内で著作権侵害が生じた場合、どこの国の法律が適用されるのですか?当社のサービスは、日本国内向けに提供する予定ですが、海外からもアクセスすることは可能となっています。

A. 日本で裁判が行われる場合は、日本国内向けにサービス提供していることが明らかで送受信行為のほとんど大部分が国内で行われているなどといった事情があれば、日本法が適用される可能性が高いと考えられます。

著作権侵害行為が行われた場合にどの国の法律が適用されるか(以下、適用すべき国の法律を「準拠法」という)については、当該侵害行為を理由とする差止請求であれば、ベルヌ条約第5条第2項の「保護が要求される国の法」(具体的には著作物の利用行為地法。以下、保護国法)が準拠法になります。一方で、損害賠償請求の場合は、法の適用に関する通則法第17条(不法行為の準拠法に関する規定)により、原則として著作権侵害の結果が発生した地を管轄する法律(結果発生地法)が準拠法になりますが、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであった時は、加害行為地法が準拠法になると解されています。この保護国法と結果発生地法は通常、同じ国を指すと考えられます。インターネットを介して著作権侵害行為が行われた場合の保護国法や結果発生地法についてはさまざまな見解があり3、現時点において定まった見解があるわけではありませんが、著作権侵害となるコンテンツを受信した国の法律(受信国法)を保護国法や結果発生地法と考える見解が有力とされています4

他方、裁判例では、この点について一般的な基準を示したものは見当たりません。被告が日本法人であること、被告のサイトなどが日本語で記述されていること、送受信のほとんど大部分が日本国内で行われていること、サーバーが海外に存在するとしても当該サービスに関するその稼動・停止などは被告が決定できるものであることから、著作権侵害行為は実質的に日本国内で行われたものということができるとして、日本法を適用した裁判例があります5

メタバース空間内で行われた著作権侵害行為についての準拠法とは

メタバース空間もインターネットを介したサービスですので、その中で著作権侵害行為がなされた場合も、上記の考え方により判断すべきと筆者は考えます。インターネットを介して著作権侵害行為が行われた場合の準拠法に関しては、現在定まった見解があるわけではありませんが、上記で示した有力な見解に従えば、基本的にはメタバースのサービス提供先の全ての国の法律(受信国法)が適用される可能性があると考えてサービスの開発・運用をする必要があるでしょう。

他方、上記で挙げた裁判例を踏まえると、対応言語が日本語のみであるといった、日本国内向けにサービス提供していることが明らかであって、送受信行為のほとんど大部分が日本国内で行われているなどといった事情があれば、仮に日本国外からもアクセス可能な状態であったとしても、日本法が適用される可能性があると考えられます。

なお、以上は日本で裁判が行われた場合における準拠法決定のルール(法の適用に関する通則法等)に従ったものであり、国外で裁判がなされる場合のように、当該国におけるルールに従って準拠法が決定される場合には、上記の議論がそのまま当てはまるわけではありませんので注意が必要です。


3 議論状況は、髙部眞規子『実務詳説 著作権訴訟(第2版)』417-419頁(一般社団法人金融財政事情研究会、2019)など参照

「山口敦子「インターネットを介した著作権侵害と国際私法」(https://jsil.jp/archives/expert/2020-2)、種村佑介「韓国テレビ番組のネット配信と著作権侵害訴訟の国際裁判管轄・準拠法」新・判例解説Watch(法学セミナー増刊)(16)339頁(2015)

5  東京高判平成17年3月31日裁判所ウェブサイト〔ファイルローグ事件控訴審判決〕

※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。

柴野 相雄

柴野 相雄
TMI総合法律事務所, 弁護士

長島 匡克

長島 匡克
TMI総合法律事務所, 弁護士

高藤 真人

高藤 真人
TMI総合法律事務所, 弁護士

企業のためのメタバースビジネスインサイト

メタバースのビジネス動向や活用事例、活用する上での課題・アプローチなど、さまざまなトピックを連載で発信します。

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執筆者

奥野 和弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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岩花 修平

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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小林 公樹

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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長嶋 孝之

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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