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『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』
『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』

 現実空間とは別の「もう一つの世界」、メタバース。「単なるバズワード」と、その可能性に目を背けてしまうのは得策ではない。新たな世界でどんなビジネスチャンスが生まれるのか。本連載では、新刊『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』(日経BP)より、来たるべきメタバース時代に向けた多角的な視座を与えてくれる6人のキーパーソンインタビューをお届けする。(日経クロストレンド編集部)

 2020年12月に国土交通省が発表した「Project PLATEAU(プラトー)」。現実の都市空間を再現した3D都市モデルのオープンデータ化プロジェクトで、都市連動型メタバースとも親和性が高い領域だ。官民でユースケースの創出が進んでおり、さまざまなコンテンツやメタバースと3D都市モデルを組み合わせた試みは、日本が先行しているという。(聞き手は、『メタバース未来戦略』著者の久保田 瞬、石村尚也)

内山 裕弥(Yuya Uchiyama)氏
国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐
内山 裕弥(Yuya Uchiyama)氏 1989年東京都生まれ。東京都立大学、東京大学公共政策大学院で法哲学を学び、2013年に国土交通省へ入省。水管理・国土保全局、航空局、大臣秘書官補などを経て現職(写真/古立康三)

国土交通省が進める「「Project PLATEAU(プラトー)」は、改めてどのような取り組みですか。

内山裕弥氏(以下、内山) PLATEAUは2020年度に始まったので、22年で3年目に入りました。当初の事業名は「まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション推進事業」と言います。

 私が所属する国土交通省都市局では、都市で行われるさまざまな活動や都市開発に関する施策を所管していて、PLATEAUもその一つ。プロジェクトの目的は3つあり、「3D都市モデルの整備」「ユースケースの開発」「整備・活用の機運・ムーブメントの醸成」です。

 3D都市モデルの整備は、都市の3Dデータの整備、オープンデータ化ですね。国際標準にのっとったオープンフォーマットで3D都市モデルの標準データモデルを開発し、整備したデータを公開しています。ですが、「3Dモデルデータを用意したので、自由に使ってください」だけでは、なかなか利用が広がりません。

 そこで国土交通省自ら、さまざまなPoC(概念実証)を実施してユースケースを開発しながら、地方自治体などの政策領域、あるいは民間サービスのプロダクトにもPLATEAUを使ってもらうきっかけづくりをしています。今後は、地方自治体が公共サービスとして自ら3D都市モデルを作ってほしいですし、民間企業や大学なども参加していろんなものが生まれてほしいと考えています。

PLATEAUはブラウザーベースのWebアプリも用意されている(画像/Project PLATEAU)
PLATEAUはブラウザーベースのWebアプリも用意されている(画像/Project PLATEAU)
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PLATEAUの3D都市モデルの特徴は何でしょうか。

内山 従来あるような都市空間の形状を単に再現した幾何形状(ジオメトリ)モデルではなく、建物や街路、橋梁といったオブジェクトをコードとして定義し、建物などの名称や用途、建設年、行政計画といったセマンティクス(属性情報)を持っていることです。

 例えば、建物であれば名称や用途、サイズなど、さまざまな情報がデータの中に含まれています。都市レベルの大規模なデータを構築しつつ、一つひとつのオブジェクトにもリッチなデータが入っているんですね。これがあると、コンピューターから見て「これは建物」「この部分は窓」といったことが理解できるので、それを使ったソリューション開発が可能になります。

 PLATEAUでは、これまでに日本全国約60都市の建物や道路などを3Dデータ化し、都市全体レベルのスケールで再現しています。その上に都市のゾーニング規制や災害リスクデータ、動的な人流データなど、さまざまなデータを重ね合わせて都市全体を対象にシミュレーションできます。